リーガルテック協会は「裁判のIT化の動向と民間企業が果たすべき役割」と題しまして意見交換会を行いましたので、その内容をここにご報告させていただきます。 ご参加くださいました皆様ありがとうございました。

主催 リーガルテック協会
日時 平成30年5月14日(月)19:00~21:00
場所 株式会社商事法務 1階会議室
会費 無料
参加者 39名(うち弁護士12名、リーガルテック関連企業関係者18名)

内容

  • 「裁判手続等のIT化に向けて」 内閣官房 日本経済再生総合事務局 参事官 川村尚永 氏
  • 「裁判のIT化民間事業者の役割」 田辺総合法律事務所弁護士吉峯耕平
  • 「リーガルテックの未来」 株式会社LegalForce代表取締役COO・弁護士小笠原匡隆
    • 資料(準備中)
  • フリーディスカッションによる意見交換

フリーディスカッション要旨

司会:吉峯耕平弁護士(田辺総合法律事務所)

野田隼人弁護士(高島法律事務所)

フェイズ1は「e法廷」ということだが、「e事件管理」についても、裁判の期日調整といった部分は法改正の必要はないはずであり、フェイズ1から実施できないか。

WEB会議の運用の試行にあたっては、ツール選別のための何らかの基準を包括的に決める必要があるはず。WEB会議だけを念頭に置いて基準を決めるのではなく、工夫による小さなツールの取り込みができるような基準策定をしていただけると、前倒しできるものが出てくるのではないか。

川村参事官

検討会でもそのような趣旨の指摘があった。この表(川村参事官発表資料28頁、「取りまとめ」20頁図3)にフェイズ1が「e法廷」と書いたのは、厳密な意味ではい。「e事件管理」の本質は、全ての記録がデジタル化され、それを閲覧できること。フェイズ1と2は主に「e法廷」、フェイズ3のメインが「e提出」と「e事件管理」という意味で、ここに書いてないからやらないというものではない。

野田弁護士

利活用について、裁判所としては、匿名処理の手間が大きな問題となる。先行して、匿名処理の自動化を検討する必要がある。このくらい自動化できますよというのが実証できれば、より広い範囲でデータを公開できるようになる。

システムを構築する会社は別として、外側でできることも色々ある。たとえば、メールシステムと繋げば弁護士の予定策定の支援ができる。スマホアプリと連動し、移動履歴を裁判の情報と連携させて、「あなたのこの移動時間は、この裁判のための移動だよね」といった管理をして、クライアントへの請求のシステムと繋ぐといったことも考えられる。

また、民事訴訟費用の確定処分は、計算が煩雑なのであまり利用されていないのが現状だが、裁判所のシステムから必要なデータを取得できれば自動化できる。

民間側で、裁判所のITシステムに、付属するような機能を開発することが可能になるのかなと思う。

川村参事官

小さなツールの取り込みというご指摘は、そのとおりと思う。システム全体の要件や大枠が固まらないとその先のものは決まらないだろうという考えから、現時点では特別検討されていない。基本はAPIさえ開放されていれば、民間側で相当大きなことができると思う。ただ、APIについては、エンジニアが使い慣れた形式で用意をすることが大事。現行の商業登記のシステムは、千葉に行かないとテストができない、仕様が古くて最近の技術者には使いにくいといったコメントもいただいている。最新の技術で、細かいものもアプリ感覚で作れるようなシステムにしていただきたい。

取りまとめで「民間のサービス・技術との連携も視野に入れて、必要な情報セキュリティの確保を前提に、API連携(複数システム間の連携や外部サービスの機能活用・共有等)、クラウド化、データ形式のオープン化等の様々な可能性を検討していくことも考えられる。」と謳っており、API連携やクラウド化への取り組みが重要と考えている。今後の課題は、このシステムを真面目に取り組むのは誰なのか、ということである。

最高裁や法務省民事局の方は、あまり技術的な情報に触れる機会がない、ということが課題である。どのように機会を作って、関心を持っていただけるか。検討会のメンバーの福田剛久弁護士(田辺総合法律事務所、元裁判官)は、裁判のIT化の話がでてからもの凄い勢いでITについても勉強されていた。そういう裁判官が増えることが大事で、そのためのインプットを法律業界の皆さんからしていただく必要があると思う。

吉峯弁護士

野田先生のいう小さなサービスを柔軟に提供できるように、APIからこういうデータをアクセスできるようにして欲しいという要望を早めに出すことが必要と考えている。

また、訴訟費用の話が出たが、現行法のルールを変更することも検討してよいだろう。訴訟費用の算定については、法令・解釈によって色々と複雑なルールがあるが、シンプルなルールに変更した方がいいのであれば、法令改正事項として提言があってもいいだろう。システムと法令・運用の間で、キャッチボールが必要だ。

匿名化自動化の実証だが、この会でやるということも考えられるが、そこまでできるのかは今後の話だ。まずは法律家と技術者が集まって、コミュニケーションを取る必要があると考えたので、今日の段階では集まるところまでやった。そういうプロジェクトもできる場を作りたいとは思っている。

梶谷篤弁護士(梶谷綜合法律事務所)

現在日弁連内部で意見調整が始まっている。

日弁連内部の弁護士の意見をみると、セキュリティや到達確認といった点に興味が向いているように思われる。現行のインフラはFAXで、固定電話番号なので基本的になりすましの心配がなく、不便な面がセキュリティでは逆にメリットになっていると言える。到達確認ができて記録が残る、またなりすましの面について確保できる、FAXに変わるような使いやすいインフラを整備してほしいと考えている。

日本医師会はレセコン等について、APIの標準化を主導している。そうした形で標準化したら様々な利用が進むのではないか。

吉峯弁護士

既存のサービスを利用するのは、裁判所には難しいのではないかという発想があると思うが、実態は違うのではないか。検討会でも、特定のサービスに決める趣旨ではないが、代表的な例示としてSkypeやWeb-EXなどが言及されている。検討会委員の福田弁護士(元裁判官)は、かつて督促手続のOCRシステムの発注を担当した経験があるとのことで、それは非常に大変だったと聞いている。

今後の法務省や最高裁の検討がどのように進んでいくのかは不明だが、合理的・効率的にシステムを開発しなければならないという問題意識は非常に強く、民間の知恵を求めていると考えている。

A氏(民間ベンダー)

システム全体をどうやって構築するのかというグランドデザインを先に検討するべきだ。いかに素晴らしい各論があっても、総論が間違っていたら何やっても上手くいかないということを危惧している。

また、既存サービスを活用するという意見に対して、反対意見がある。既存サービスを使うと、データベースをベンダーに譲ってしまうことになるのではないか。今後の利活用を考えると、裁判所が一つのデータベースを構築するべき。データベースを一つにして、アプリケーションはAPI化して、フロント側だけを譲る。きちんと一つのデータベースにデータを集積するのが、システムのグランドデザインで最も大きな決断になると思う。既存サービスの利用は中長期的にはよくない選択ではないか。

水野祐弁護士(シティライツ法律事務所/慶應義塾大学SFC研究所リーガルデザイン・ラボ)

AIの活用を考える時に、データ量を増やすことが一番重要。APIもアクセスのハードルを低くする意味で重要だが、単なるインターフェースでもあるので、その前にアクセスできるデータセットが必要。誰もがアクセスできるオープンデータを増やすことがAIの活用に繋がる。判決が一番データ化しやすい情報なので、判決のオープンデータ化を早急に進めるべきだと思う。

裁判のIT化は裁判官や弁護士の視点で語られがちであるが、エンドユーザーである企業や個人の意見を吸い上げる仕組みや、利用者にとってどのような利便性があるのかという点も大事ではないか。

既存サービスを使うか否かは、権利が移転してしまうものと、単に無償の利用権を付与しているものがあり、後者がほとんどではないか。既存サービスを使うと裁判所からデータがなくなるわけではないので、既存サービスを利用することも検討してよいと思う。

A氏

データがサービス提供業者にそのまま移ってしまうということではなく、両立した状態になると思う。契約次第だろうが。

吉峯弁護士

裁判所が既存のサービスを利用するとして、サービスを使うために必要な条件は整理することになるであろう。その際に、データの帰属についても条件に入ってくるということなのだろう。個人情報保護法でいうところの委託のような形で整理すれば、それほど大きな問題にはならないのではないか。

A氏

私が言いたかったのは、そもそも誰もがアクセスできる司法のデータを増やしていかないと、民間の事業者が参入できないじゃないか、といった事業的な目線である。

川村参事官

今の議論は非常に大事な視点だったと思う。

悩ましいのは、行政機関ですら自前でサーバを設置運用できる能力があるかどうか分からないことである。裁判所はどうなのかというと、さらにハードルが高い。理想として自前でやることなのかもしれないが、最先端の技術開発をフォローして、バックアップを含めた体制を整備しているAmazonやGoogleの水準で、良いサービスが提供できるのか甚だ疑問である。むしろ、外部のリソースを使う際の契約条件をどのように設定するのかが重要なのではないか。

まずは、システムのグランドデザインを最初に考えなければならないという考えも理解する。そして、実際のシステムの調達の段階は、司法機関である裁判所の領域になるので、行政機関が介入することはできない。裁判所の人たちに、どのように注意喚起、情報提供していくかが大事である。

もちろん、データが大事であり、特に、データのポータビリティをどう確保するかが肝心だと考えている。どうビックデータ化していくか、データがあっても使えなければ意味がないのはご指摘のとおりだが、今回の報告書ではそこまで踏み込んでいない。そこを攻め込むとなかなか纏まらなかったかもしれない。まずは環境整備が必要だろう。自然言語処理、匿名加工をどうしていくか、実証してみせて体感すれば、意識も変わる。

セキュリティも大事なことだと思うが、おそらく簡単にできると思う。注意をしながら入れていけばよい。

裁判のIT化は、プロフェッショナルなプレイヤーの意見が反映されやすいと思う。最終的なエンドユーザーは個人や企業になると思う。この議論の中に、個人や企業の意見・ニーズを取り上げるような仕組みを考えてもらいたい。

吉峯弁護士

水野先生からエンドユーザーの利便性について指摘があった。

訴訟制度の利用者としての民間企業の視点からは、「見える化」が進むと考えている。我々弁護士は、今も、裁判資料は依頼者に送っており、きちんと共有されているはず。しかし、紙の書類を随時送るだけだと、依頼者できちんとファイリングされていなかったり、多数の担当者において資料が共有されていないといったことが、えてして起こる。

IT化が進めば、依頼者も即時にシステムにアクセスして裁判資料を見ることができる。これまでも書類は送っているので、理論的には同じ情報が依頼者に共有されているが、弁護士を通さずに、いつでもアクセスできる形になると、依頼者と弁護士の関係は変わってくるだろう。今以上に、きちんとやらないといけない。

川村参事官

エンドユーザーのニーズを組み入れたかったが、個人と企業から検討会への参加者を探すのが非常に大変だった。皆、我が事だと思ってないということであり、司法に期待してないということかもしれない。期待してもらえるようにし、リーガルテックのサービスで、司法を身近にしたい。個人、企業から、使い勝手についての声がどんどん挙がるような形にしたい。

圓道至剛弁護士(島田法律事務所)

元裁判官という経歴もあり、契約の電子化等が進んだ場合に裁判で問題が生じないか、といった相談を金融機関等から受けることがある。電子取引が裁判になった場合に、契約成立をどのように立証するかという点であり、裁判官を説得するためには、立証に必要な資料をパッケージ化して予め用意する必要があると考えている。

先ほど水野先生が言及した判決データのオープンデータ化・蓄積は、どの契約条項がどれだけ争われるかのリスクを分析することができるようになり、企業にとっても大きなニーズがあると考えている。

一方で、企業にとっては営業秘密等を守りたいというニーズもあり、先ほど野田先生が述べていた匿名処理もとても大事だと思う。裁判所において、現状、判決の匿名化をどうやっているかというと、Wordデータを前から順に、固有名詞や名前等を調べてはマスキングを繰り返し、迷ったら裁判長等と相談して判断する、という作業を延々と行っている。裁判官がなぜ判決の公開を希望しないかというと、一つがマスキングの手間である。また、判決が公開されると、ここは間違っているのではないかとの批判を受けることが多くなるので、それも消極姿勢の理由としてあるのではないか。

そうすると、判決の公開を進めるためには、匿名処理の手間を省く必要と、裁判官に対して判決公開に向けた一定の強制が必要であり、それがIT化を契機に進められるとよいと思っている。

匿名処理については、現状の裁判官の判断にとどまらず、当事者が「この固有名詞をマスキングしてね」と申請すると、自動的に判決書がマスキングされるような仕組みがあれば、公開のハードルは下がると思う。企業にとっての、営業秘密や固有名詞を隠したいニーズと、適法性を予測するニーズを上手くバランスできるのではないか。

B氏(民間ベンダー)

2000年頃から電子政府関係の話に関わって来た。2004年頃に電子政府対応で裁判所とも話をしたことがあったが、20年は進まないだろうな、非常に遅れた世界だなという印象を受けていた。

アメリカにはリーガルテックの会社が1800あるということだが、ほとんどは法律事務所などの民間の競争原理の世界の話だろう。裁判所システムのような分野は、電子政府とほとんど同じ話になるのだが、官側の情報連携という意味においては、欧州の方が進んでいるのではないか。官側のバックオフィス連携などは、ToBeも見据えたグランドデザインが必要で、これ無しに、素人発想でボトムアップ的にシステムを構築していくということになると、非常に危険であり、危惧している。最終的には裁判所のシステムが、裁判所以外のシステムと連携しないといけない。他方、民間等の連携になると、競争原理が上手く働くような米国型のシステムに近い考え方も必要になる。

電子政府のようなシステマティックな領域(欧州型)と民間の競争力が上手く働くような領域(米国型)を使い分けないといけないという意見を持っている。

改正個人情報保護法で匿名加工情報等を検討したが、構造化されていないデータの匿名化はまず不可能で、再識別される可能性がどうしても残ると思った方が良い。当該データ単体の話では終わらず、ネット上の様々なデータと突き合わせることで、個人が識別できてしまう参照リスクが残る。従って、匿名化による完全なオープンデータ化は、難しい。

データがオープンな形で参照できるのは重要だが、なんらかのアクセス制限がかけられた状態で、なんらかの権限者が参照できるといった方向にしかならない。ビックデータ処理やAIの研究が進めば進むほどに、匿名化は容易に破られる方向に向かう。

野田弁護士

私個人としては、ビックデータ化が必ずしもよいとは思わない。ある程度制限的に考えておかないと危ないと思う。その理由の一つは、今、指摘があった匿名化が破られるということである。

もう1つは、ビックデータ化して、従来の判決を材料に高度な判決予測が可能になると、解釈論が硬直化するのではないかという点。裁判所は、使うなと言っても使うであろうし、使いたくなる。ひたすら先例踏襲的な硬直した裁判になってしまうのではないかという恐れが一つ。

判決予測をする時に、必ずしもビックデータである必要はおそらくないはずである。適切なサンプリングがされていて、ある程度の件数があればかなりの確率で判決予測ができるであろうし、それ以上データを積んだところで精度が上がるわけではないと思われる。全件公開した上で、全てをビックデータとしてAIに食わせるという発想は、あまり良くないと思う。

AIによる判決予測が可能になった場合に、前例となる判断が「まとも」であれば、判決予測に従った判断も「まとも」になるだろうが、そこに疑問がある。良心・責任を持ってやっている裁判官はよいが、弁護士としては、100%そういう裁判官ばかりだと断言もできない。少なくともビックデータ化するのであれば、裁判官の判断基準としてそのデータがどのように参照されるべきなのかについての、法理論ということにはならないと思うが、倫理的なコードや理論武装が必要になる。間違った判断を未来永劫引きずっていくということになりかねない。

C氏(民間ベンダー)

この会は、川村参事官を応援する会という理解をしている。その相手は、最高裁の方々だと思うが、会として接触のタイミングのイメージについてお考えがあれば知りたい。

吉峯弁護士

最高裁・法務省が抵抗勢力で、それと戦う川村参事官というイメージが世間にあるようだが、実態はそうではないと思う。最高裁や法務省の担当者も、裁判のIT化をやる以上は良いものにしたいと考えているし、色々な知恵を欲していると思う。ただ、裁判官が全員両手を挙げて賛成かというと、それは色々な考えがあるのだろうし、裁判所内部の議論はこれから進んでいくのだろうと思う。技術的な情報発信など、最高裁・法務省の担当者への助けになるような活動が必要であろうし、担当者が裁判所の内情と板挟みになるようなことがあれば、担当者を応援することも必要になってくるかもしれない。

今回も、できれば最高裁・法務省の担当者にもお声がけしたいとも思っていたのだが、正式な案内が直前になってしまい、どれくらいのメンバーが集まるか読み難い中で、お声がけのタイミングを逸してしまったというのが実情。

C氏

「2019年にe-court導入」のスケジュールから考えると、実は裁判所側はシステム調達についてSIerに声をかけていたり、仕様書も既に固まっていたりといった「出来レース」という可能性はないか?

川村参事官

調達には、予算や入札といったそれなりの手続があるので、既に固まっているとも思わないが、こういうシステムを作るためにどの程度の費用が必要かといった話はしているかもしれない。

裁判所が抵抗勢力になるとは全く思わないが、ITを知らないとシステムを作れない。システムと法律の両方が分からないとうまくシステム構築ができないと聞いている。要件をがちがちに決めて発注すると高くつくということがあり、キャッチボールが必要になる。グランドデザインのあり方も含めて、法律と技術の双方に詳しい人にインプットをしてほしい。ベンダー丸投げの調達は最悪なので、そうならないように、発注側の最高裁、法務省に情報提供をしていただきたい。そういうことを議論する場を作っていただければ、良い裁判手続のIT化ができると思う。

こういう場についての期待を述べたい。

スマートコントラクトとか、判断基準が明確なものは全部自動化していこうという流れが産まれてくることを期待している。予見可能性が高いシステムほど実現化に繋がりやすいと思う。これから実現するためのアイデアをこの場で揉んでいただきたい。

法曹界は、デジタルに対する不信感が非常に強いと感じる。デジタル=漏洩、信用できない、コンピューターは何でも不正ができるというイメージがある。しかし、デジタル化によって記録が残り嘘がつけなくなっているというのが実情ではないか。それらの意識を変えて、デジタルの強み・人の強みを法曹界の方に理解してもらい、体感をしてもらうことで、フィンテック、レグテック、リーガルテックなど、様々な技術革新が進んでいくのではないか。この場の皆さんを中心に、様々な議論を広げていき、法曹会の中から意識を変えていくことで、日本も変わっていけるのではないか。リーガルテックの世界を盛り上げていただきたい。